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前へ ずっと話し込んでいたら、さすがに夜風で部屋が冷たくなってきた。舞波さんはクシュンと小さなくしゃみを1つすると、チェストからブランケットを引きずり出して、2人の足を隠すように広げてくれた。どうやら、まだ話は続くらしい。 「少し前に、お嬢・・・千聖のお父様の大きなお祝い事があって、それまで全く関わりのなかったうちの家族も、招待されたんです。 私はこんな状態だし、両親だけ行く予定だったけど、是非出席をとお願いされてしまって。そこで、初めて千聖と出会いました。」 ***************** “「舞波ちゃん、勉強はどう?」 「忙しい時期でしょう?友達はできたの?」 某高級ホテルの、結婚式でしか使われないような庭園レストラン。 硬直するお母さんの手をテーブルの下で握りながら、私は目の前のご婦人に、学校には行っていないんです、返事をした。この人、誰だっけ。・・・父方の叔母さんの小母さん、だったかな。 さっきお母さんが、私が学校に行っていないっていう説明をしていたはずだけど・・・それでも私に、直接聞かなければ気が済まなかったのかな。変な人。 「まあ、可哀想。うちの姪子はね、舞波ちゃんと同い年で、おかげさまで進学校に合格して、今日は部活で忙しいから来れなかったけれど・・・あぁ、ごめんなさい。こんな話、辛いわよね?」 「いえ、別に。お気になさらないでください。」 私のリアクションが予想と違ったのか、その人はあからさまにつまらなそうな顔をして、目の前のテリーヌに乱暴にフォークを刺した。 やっぱり、来ないほうが良かったのかな。 自分が何を言われても別に大丈夫だけれど、お母さんやお父さんが辛そうなのは嫌だと思う。どうして私がこの宴に呼ばれたのかよくわからないし、気持ち悪くなったとか適当な理由をつけて、そろそろ退席する準備をしようかな。 せっかく東京に出てきたのだから、こんなところでモヤモヤしていないで、両親と観光に行った方がよっぽど楽しそうだ。 「ご歓談中、失礼いたします。石村舞波さんでいらっしゃいますか」 「あ、はい。」 そんなことを考えていると、ふいに後ろから声をかけられた。黒いスーツにリボンタイの初老男性――今日はあちらこちらで同じ服装の人を見かけるから、執事さんだろうか――が、振り向いた私に一礼して、スッと青い封筒を差し出してきた。 「千聖お嬢様から、こちらをお預かりして参りました。」 「私に?」 「出来れば、早めに目を通していただきたいとのことです」 「はぁ・・・」 私は横目で、上座に陣取る家族の方を伺い見た。 本日の主役である、精悍な顔立ちで存在感のある凛々しい旦那様。 次々挨拶に訪れる客人に、愛想良く対応する美しい奥様。傍らの揺り籠では、赤ちゃんが眠っている。 そして、その隣に座っているのが、この手紙の差出人である、千聖お嬢様だった。 男の子みたいに短くそろえられた髪。旦那様譲りの小麦色の肌。中学2年生と聞いていたけれど、それよりもずいぶん幼く見える。 せわしなくキョロキョロ動くビー玉みたいな目が可愛くてジッと見つめていると、思いっきり視線がぶつかってしまった。 「あっ」 「あっ」 かなり席は離れているけれど、同時ぐらいにお互い息を呑んだのがなんとなくわかった。 「舞波?」 「ちょっと、外出てくるね。」 私が席を立つと、視界の隅っこで、千聖お嬢様も慌てて立ち上がったのが見えた。ジュースでもこぼしちゃったのか、軽い悲鳴と奥様の叱咤の声が聞こえる。 その声を背に、一足先に私は中庭へと足を運んだ。 美しい草花に囲まれたベンチで目を閉じてぼんやりしていたら、さっきまでの少し沈んでいた気持ちが落ち着いてきた。 そろそろ、来るかな? なんとなくそう思って、目を開けて姿勢を正した。 ジャストタイミングだ。数秒遅れて、蔦の絡まる柱の陰から、千聖お嬢様がよたよたと歩いてきた。慣れないミュールのヒールが憎らしいのか、困った顔で何度も踵と地面を見比べている。 「千聖お嬢様、こんにちは。はじめまして」 「きゃっ!」 いきなり声をかけたから、驚かせてしまったらしい。小柄な体が派手によろける。 私はベンチから離れて、よろけた千聖お嬢様を受け止めるように手を差し伸べた。 「あ・・・」 一瞬、触れた肩が強張った。そっか、触られるのは苦手なのかな。あまり気を使わせないよう、なるべく自然に手を離して、「大丈夫ですか?」と声をかけた。 「えと、はい、大丈夫です。支えてくださって、ありがとうございます。」 緊張しぃなのか、お嬢様はほっぺたを赤くして、若干モゴモゴした口調になっていた。 「あの、舞波さん。ありがとうございます。」 「え?」 「だって、お手紙、すぐに読んでくださったのでしょう?だからここに・・・・」 そう話しだしたお嬢様は、私の手元に視線を移すと、不思議そうな顔をした。 「あら・・?読んでいらっしゃらないの?でも、それならどうして?」 しまった。もらった手紙を持ったままにしていたから、シールでしっかり封をした、開けられた形跡のない封筒が、お嬢様の目にとまってしまった。 執事さんに聞きましたとか、言い訳できなくもなかったけれど、なんとなくこのお嬢様には嘘をつきたくなかった。・・・というより、話してもいい、となぜか思えた。自分の、特殊な能力のことを。 「お嬢様。話半分で聞いていただきたいのですが、実は私・・・」 「・・・そう、だったの。とても勘がすぐれているのね。だから、千聖のお手紙の内容が、読まなくてもなんとなくわかってしまった」 丁度話の区切りがついたところで、お嬢様は微笑した。 ライトイエローのドレスから伸びるお嬢様の小麦色の足が、庭園の土を軽く蹴って、二人乗りのブランコが緩やかに動く。 「驚いたわ。お呼び出しした場所までわかるなんて」 「なんとなく、ですけど。イメージが沸いてくるんです。」 驚いたとはいうものの、私の能力の話を聞いても、お嬢様は特別大きなリアクションは起こさなかった。最初は両親でさえ軽くパニックを起こしたというのに、この反応は新鮮だった。 「まるで、魔法使いのようね。千聖のクラスにも、魔法に憧れている方がいるのよ。あんまり話したことがないけれど・・・きっと、すぎゃ・・彼女が聞いたら、うらやましがるわね。」 「でも、百発百中ではないんですよ。外れれば人に迷惑をかけるし、あんまりお見せするものではなかったですね。すみません、不注意でした。」 私が頭を下げると、千聖お嬢様は不思議そうな顔をした。 「どうして?失敗は誰にでもあることでしょう。千聖も走るのがとても得意だけれど、転んでビリになってしまうこともあるわ。舞波さんもせっかく素敵な力をお持ちなのだから、失敗を恐れることはないと思うけれど・・・ きっとその能力は、人を笑顔にする素敵なものなのではないかしら。・・・舞波さん?どうなさったの?」 「いえ、あの・・・」 あまりにも予想外なお嬢様の言葉が心に刺さって、私は身動きが取れなくなってしまった。ここ数年、淡々と、心を揺さぶられることなく生きてきた私にとって、リハビリもなにもかもすっ飛ばしたいきなりの激情だった。 「舞波さん?」 「あ・・・すみません、何かそんな風に言ってもらえるなんて、びっくりして、目から鱗っていうかっ」 何とか場をつなごうとして口を開くと、昂ぶっていた神経がそうさせたのか、いきなり涙があふれた。 「ごめ、ちょっと、すいません、私ったら」 「まあ。舞波さんたら、目から鱗じゃなくて涙が零れてしまったのね」 私の目じりを、お嬢様が優しくハンカチで拭いてくれる。バニラのいい香りがした。 「あのね、舞波さん。今日ここに舞波さんを強引にお誘いしたのは、私なの。」 「どうして・・・?」 「わからないわ。お父様から、遠縁の親戚で年の近い方がいるって聞いたときに、なぜか無性に会いたくなったの。きっと、素敵なお友達になってくださるような気がして。これは、きっと千聖の超能力ね。舞波さんに出会えてよかった」 お嬢様はそう言って、ウフフと笑った。 「よかったら、これから千聖のおうちに遊びに来ない?ここから近いの。車で10分ぐらいよ。せっかくお友達になれたのだから、もっと千聖のことを知って欲しいわ。」 「でも」 「お願い。ね、舞波さん?舞波さんのお父様とお母様にも、千聖からお願いしてみるから」 「ウフフ、わかりました。では、2人で交渉してみましょう。」 「本当?嬉しい。後で妹弟のことも紹介するわね。そうね、まずは、会場に戻りましょう。」 千聖お嬢様はパァッと明るい表情になって、勢いよくブランコを飛び降りた。 「もう、お嬢様ったら、ミュールで危ないですよ」 「大丈夫よ。早く行きましょう、・・・舞波、ちゃん」 「もう、そんなに急かさないでくださいって。・・・・千聖。」 一歩間違えれば大変な無礼にもなるけれど、きっと、これがお嬢様の望み。案の定、お嬢様・・千聖は少し目を丸くした後、目をくしゅっと細めて笑った。 「やっぱり、舞波ちゃんはすごいのね。千聖の自慢のお友達だわ。」 まるで羽でも生えているように、軽やかな足取りで、千聖は走る。その背中を見つめ追いかけながら、私は初めて、この能力を持って生まれてきたことに心から感謝した。 次へ TOP
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主婦の日常は思った以上に平凡で、事件も家の中でしか起こらない。 毎日がとってもバラ色にみえた結婚前のあの頃の自分が、今では何て幼稚だったのか、と馬鹿馬鹿しくて笑っちゃう。 商社マンの旦那は毎日仕事三昧で、「子供が出来たら毎週どこかに遊びに行こう」と夢を語ったくせに、毎週接待ゴルフに忙しい。 真面目さが取りえで、会社で一番誠意ある人だと思って結婚したはずだった。 付き合い始めはすごくマメで、どんなに忙しくても毎週ドライブに連れていってもくれていた。 鎌倉、湘南、伊豆、お台場、横浜、とデートスポットには欠かさず二人で出かけたものだ。 それが今では毎週車でおでかけをするのは、買い物に近場のスーパーへ行くぐらいになってしまった。 商社マンの妻って肩書きに誰よりも自分が魅せられていたのだ、と結婚してから気づいた。 近所のお母さんたちに「私は商社マンの妻です」、って自慢したかっただけの浅い結婚だったのだ、と今更になってそう気づいた。 気づいたときには、中学にあがる娘がいるいいおばさんになってしまったけれど、どこかで私は夢みていた。 退屈な日常とは違う、ドラマチックな事件が起きることを・・・ 「ママ、ただいま~」 娘の梨沙子の元気いい声が、玄関口から台所に立つ私にも聞こえてくる。 梨沙子は今年の春で中学二年に進級した、反抗期の真っ盛りのお年頃の女の子だ。 ただ学校に行くだけなのに、制服の着方一つをとってもファッション雑誌をチェックして、流行を取り入れている。 小さい頃はしょっちゅう「ママ、ママ」、と言っては泣きじゃくっていた子がもう中学生になる。 月日は早いものだ、と娘の成長とともにしっかりと刻まれていく皺をみて溜息をつく。 「おかえり。今日は早かったのね。部活はどうしたの?」 「あさってからテストをやるから、今日から部活は休みだって言われたじゃん」 私がそれを覚えていなかったのがつくづく不満だったのか、梨沙子は頬を膨らませた。 中学生にはなったものの、まだまだ子供な面が多く残る子だ。 つい最近までお風呂も自分では入れなかったくらい、親を心配させる子だったから無理はない。 それにしても、誰に似たのかわが娘ながら随分と綺麗に育ってくれた。 梨沙子はこの年の娘にしては、親馬鹿だが、アイドルになれてもおかしくないレベルの美しさと輝きがある。 「あ、そうだ。ママ、実はね、今日は友達を連れてきているの」 「え?」 意外な言葉を聞き、思わず聞き返してしまった。 この子は今何て言ったんだろう。 「だから、友達を連れてきたっていったの。あのね、その子は勉強が苦手でりぃに勉強を教わりたいんだって」 「そうなの。いいわよ。玄関で待たせているなら、家に上げてあげなさい。お茶出してあげるから」 「ふふっ、ママならそう言ってくれると思った。じゃあ、呼んでくる」 梨沙子はにっこりとほほ笑み、玄関までバタバタと走って友達を呼びに行った。 あの子があんなに嬉しそうにしていることはみかけなかったから、母親のこちらまで嬉しくなってきた。 果たしてどんな子が現れるのか、と期待と不安の入り混じる中、お辞儀をして部屋に入ってきた子が目に入った。 ショートカットの可愛らしい女の子の友達が来た。 私は勝手にそう判断してしまったが、実際はよくみていない早とちりで、よくみてみれば、制服は男のものだ。 では、この子は男なのだろうか!? 私がよほど訝しげな表情でこの子を凝視していたことに気づいたのだろう。 梨沙子が、 「ママ、ジロジロ見過ぎだよ。全く、ママまで千聖のことを女の子だと思って。この子は岡井千聖って言って、れっきとした男の子だよ」 と、呆れたような口調でそう教えてくれた。 この子が男? 本当に私の見間違いでないのか。 不安に駆られる私に、今度は千聖君が静かに話し始めた。 「えぇと、はじめまして。梨沙子ちゃんの友達の岡井千聖です。よろしくどうぞ」 「千聖はクラスの子たちにあんまり女の子っぽいから、『岡井少女』ってあだ名で呼ばれてるの。でも、ちゃんとした男なんだからね」 「や、やめてよ。りーちゃんのママでその話はやめてってば。恥ずかしいじゃん」 「ここでちゃんと言わないとママにまで間違えられるよ。千聖は男ですって言わないとさ」 声を聞いても、私にはまだこの千聖君が男の子だとは信じがたい。 しかし、梨沙子の真剣さからにじみ出る気迫に嘘はこもっていないように思う。 それに梨沙子が私をこんなことでからかったところで、何も意味はない。 やはり千聖君は本当の男の子なのだ。 それをはっきりと認識した私に、この時、千聖君に胸ときめくことがあるとは考えられなかった。 次のページ→
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前へ 「めぐ、行かないで。私を捨てないで・・・」 小さな体全部を震わせて、お嬢様は何度も何度もごめんなさいと繰り返し呟いた。 「・・・千聖、大丈夫。誰も千聖を置いていったりしないよ。」 「私、舞に嫌われてしまったの。私のことが嫌だから、舞は寮を出て行くって・・・どうしたらいいの。」 お嬢様はしゃくり上げながらも、一生懸命私に話してくれた。 マイさんに、ワガママだから嫌いだと言われたこと。お世話係なんてしたくない、勉強も見てあげたくないと言われたこと。 思い出すたびに苦しくなるだろうに、お嬢様はまるで自分を痛めつけるように、一語一語、心に刻むように喋り続ける。 「私が悪いの。さっきだって、なっきぃは当たり前のことを言っただけなのに、私が勝手に当り散らしてなっきぃを傷つけたわ。全部私のせいなの。ワガママばっかり言っているから、お父様もお母様も妹達も帰ってきてくれないのね」 「何言ってんの、違うよ千聖。そうじゃないよ。」 優しい千聖お嬢様は、他人にワガママを言った後、いつもひどい自己嫌悪に陥っている。私はずっとお嬢様に仕えてきたから、そんな場面を嫌というほど目の当たりにしていた。 いいじゃないか、少しぐらい人に当り散らしたり、怒りや悲しみをぶつけるときがあっても。それを受け止めるためのメイドであり、お手伝い係を担う寮生なんじゃないの? マイさんと何があったのかはわからない。マイさんは頭がいいから、なかなか本心が見えない。だけどあれだけお嬢様のことを慕って、いつでも一緒にいたマイさんが、今更お嬢様のささいなワガママを理由に離れていくとは思いがたい。何か別の理由があるのは明らかだった。 それでも私は、彼女がこんなにも千聖お嬢様を傷つけたことはやっぱり許せない。 今ここにマイさんがいたら、つかみ合いになってでも、千聖お嬢様に謝らせたい。年下だろうと、そんなことは関係ないと思う。 こういうことを即考えてしまうのが良くないんだろうな。私は結構頭に血が上りやすい。いつもお嬢様に“そんなことを言わないで。めぐは怒りっぽいのね。”なんて窘められちゃう部分だから、さすがに口に出しては言わないけれど。 「ねえ千聖。マイさんだけが、千聖の全てじゃないよ。舞美だってアイリさんだって、他にもいっぱい千聖に良くしてくれる人はいるでしょう?」 ・・私だっているよ、とはさすがに言えなかった。それは恥ずかしい。 「でも、舞は1人しかいないわ。皆さんのことも、めぐのことも大好きだけれど、舞がいないと私は心が壊れてしまうかもしれない。・・・めぐ、お願い。舞のことを悪く思わないで。舞に頭を下げさせようなんて、考えないで。」 「千聖・・・、うん、わかった。ごめん」 お嬢様は意外に人の心の機微を読む。私の考えていることは、概ね感じ取ることができたみたいだ。 さすがに短気すぎたかもしれない。みんなが揺れている今、私まで理性を失ってどうするんだ。 「千聖、良かったらソファに移動しない?いい加減床に座りっぱじゃ寒いよ。・・って私の部屋じゃないけど」 「ふふ。そうね」 お嬢様はやっと少しだけ笑顔を見せてくれた。 相変わらず私の体にギュッとしがみついたまま、ふかふかのソファに腰を下ろした。あんまり人に触られるのが好きじゃないお嬢様が、こんなに体をくっつけてくるなんて。 人のぬくもりで心を癒さなければいけないほどに弱ってると思うと、私の胸もズキンと痛くなった。 「何かさ、人間関係って難しいよね。相手を思ってしたことでも、変な風に捉えられちゃったりさぁ。 逆に、どうでもいいことで気を使われたりもするし。変な気回さないで、はっきり口で言ってよ!みたいな。どんなに仲が良くても、そういう見解の相違?みたいなのって起こっちゃうんだよね。」 「・・・めぐは、お友達と大喧嘩をしてしまったことがあるの?」 「うん、昔のことだけどね。少し似ているかもしれないな、今のお嬢様とマイさんの状態に。」 私は千聖お嬢様のふわふわした癖っ毛をいじりながら、今で少し胸が痛むその出来事に思いを馳せていた。 「中学生の時にね、すごく仲のいい友達がいたの。でも、つまらない誤解が積もり積もって、ある時ひっどいケンカになって。私が彼女のためになると思ってやったことが、逆に彼女を傷つけて苦しめていたみたい。」 「その方とは?今はどうなっているの?」 「・・どうもなってないよ。ケンカ別れしたまま。」 「会いたいとは思わないの?めぐが謝ったら、お友達に戻れるのではないのかしら?」 お嬢様の声に熱が篭る。自分とマイさんの出来事に、重ね合わせているんだろう。 「・・・・会いたいよ。でも、ちょっと時間が経ちすぎちゃった。正直、顔を見るのが怖い。それに、会わないうちに変わってしまっていたらどうしようって。彼女だけじゃなくて、自分もね」 「そう・・・めぐでも、そんな弱気になってしまうことがあるのね。」 「ふはっ、どういう意味、それ!」 お嬢様の屈託のない天然発言に、思わず吹き出してしまった。めぐでも、って。 本当に、千聖お嬢様は不思議な力を持っている。たった一言で、ちょっと暗くなっていた私の心の雲まで飛ばしてくれた。 「正直さっきは、千聖をこんなに傷つけたマイさんが本当に憎たらしかった。だけどね、マイさんが千聖にひどい言葉をぶつけたのには、何かしら理由があると思うんだ。 もし千聖がマイさんと仲直りしたいって思ってるなら、早く手を打ったほうがいいよ。お互いのことをちゃんと好きなのに、このまま誤解してお別れするのは悲しいでしょ。・・・・私みたいに、手遅れになる前に。」 「めぐは、舞が私のことをまだ好きだって思うの?」 「当たり前でしょー?こんなに可愛い千聖のことを、そうそう嫌いになれる人なんていないって。」 抱っこしてる腕に力をこめてほお擦りすると、お嬢様はやっといつもの潔癖気味のお嬢様に戻った。 「きゃっ!嫌よめぐ、そんなにギュッてしないでちょうだい。顔が近いわ!」 「うへっへっへ、千聖がワンちゃんみたいで可愛いからぁ」 「もう・・・・・・ありがとう、めぐ。もう大丈夫よ。ごめんなさいね、お仕事が忙しい時間なのに。」 お嬢様は部屋のドアを開けて、仕事に戻るよう促してきた。 「じゃあね、お邪魔しましたお嬢・・・」 「あっ待ってめぐ。栞菜を呼んでほしいの」 「カンナさん?」 確か、3日ぐらい前に入寮したっていう・・・ 「栞菜に、添い寝をしてもらうわ。そういう約束をしてるの。」 「わかりました。もうお食事はよろしいですか?そしたら、お風呂沸かしておきますから。カンナさんには、22時頃来てもらいましょうか。」 お嬢様の部屋を出た私は、懐かしい友達の顔を思い浮かべた。 まだ彼女のアドレスは消していない。2人で撮った写真やプリクラも、捨てられずにいた。 「みやび・・・」 久しぶりに口に出した名前は、やっぱり私の胸を切なく締め付けたのだった。 次へ TOP
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部屋に通されて、ちっさーはすぐにデンモクを使って入力を始めた。 「ちっさー、そんなあわてないで。飲み物選んでからでいいよ。」 「んー・・・」 あら、集中モードに入ってしまったみたいだ。 とりあえず私はアイスティーを2つ頼んで、真剣にリストを作っているちっさーの横顔を観察することにした。 「ねー、何入れてるの?見せて見せて。」 「あっ待って!セットリストは、画面を見てからのお楽しみにしたいわ。まだ見ちゃダメよ。」 セットリストって、ちっさー。 まあでも、いたずらっ子みたいな顔で笑うちっさーは相変わらず可愛かったから、私は素直に言うことを聞いてあげることにした。 そうこうしているうちに店員さんが飲み物を持ってきて、ドアを閉めた途端に「さあ、始めましょう!」と珍しくちっさーが声を張った。 イントロが流れ出す。 予想通り、『スイーツ→→→ライブ』だった。 「この曲で、コンサート盛り上げましょうね!」 ちっさーはぴょこんと小さく跳ねると、私の手を取って勢いよく立ち上がる。 お尻をふりふり踊る姿に、私もテンションが上がってきた。 私が出だしを歌いはじめると、ちっさーはまるでお客さんが実際に目の前にいるかのように、満面の笑顔を振りまきだした。 そのしぐさが何だか可愛らしくてジーッと見つめていると、少し照れくさそうに笑ってから、自分のパートを歌うために口元にマイクを持っていった。 「前回 食べるペースを~」 少し色っぽくて、太めなちっさーの歌声。 何だか久し振りに聞いた気がする。 お嬢様になってからのちっさーは、それはそれは可愛らしい歌声に変わっていた。 愛理みたいに柔らかくて、なっきぃみたいに高く可愛らしい小鳥のような天使の歌声。 それはそれでいいという意見も多かったけれど(私もその一人だった)、ちっさーなりに思うところがあったみたいで、徐々に前の声質を取り戻す努力をしていたみたいだ。 今私の耳に入ってくるのは、まさに前のちっさーのそれだった。 たまらなく懐かしくて、だけどちょっとだけ名残惜しいような不思議な気持ちだった。 サビのほんの一部分、私たちの声は重なり合う。 ちっさーの声が強すぎるとか、私の主張が弱いとか指摘を受けがちな部分だったけれど、今日はすごく綺麗に絡まりあっている気がした。 ちっさーも同じように思ったみたいで、ちょっと目をパチクリさせながら笑いかけてきた。 言葉にしなくても、なんとなくわかりあえるのが嬉しかった。 小さい頃に絵本で読んだ、幸せを探して旅に出たけれど、本当に欲しかったものはすぐ近くにあったっていう話を思い出した。 私の求めていたものもとても単純で、だからこそ見失ってしまいがちなものだったのかもしれない。 「ちっさー、最高じゃない!?今歌っててすごく気持ちよかった!」 「ええ、私もそう思っていたわ。」 手を取り合ってはしゃいでいると、また次の曲のイントロが始まった。 「・・・・またかい!」 そう、ちっさーは、再びスイーツ・・・・を入れていた。 「だって、栞菜といっぱい練習したかったんですもの。・・・嫌かしら?」 うっ 仔犬のようなまなざしにはかなわない。 せっかくちっさーが考えてくれたオーダーなんだから、今日はとことん付き合うことにした。 「よーし、じゃあ張り切っていこう!」 ――でも、私はちっさーの張り切りを甘く見ていたのかもしれない。 「ち、ちっさー・・・・もう、いいんじゃない、かな。」 「え?どうして?」 このイントロを聞くのはあれから何度目だろう。もう確実に2ケタに突入している。 「まだまだ、練習して極めないと。んー、今で、折り返しぐらいかしら。」 「うへっ」 そうだった。ちっさーは尋常なく一途で、これと決めたらのめりこんでしまう傾向が昔からあった。 こういうところは、回転寿司でエビタルタルを頼みまくる某リーダーとよく似ている気がする。 私がストッパーにならないと、今日は突っ込みのなっきぃや舞ちゃんはいないんだった。 「もう十分な回数こなしてるって。違う曲にしようよぅ。他にもあるじゃない、私たちがいっぱい歌う曲。」 軽くしなだれかかってみると、ちっさーはちょっと考えてから「わかったわ」とうなずいてくれた。 「じゃあこの回が終わったら、違う曲も入れてみましょう。私が考えてもいいかしら?」 やった!ちょっとお姉ちゃんぽい説得ができた。 思わず舞い上がって、私はどうぞどうぞとまたもやちっさーに曲の入力をまかせた。 「おっ!僕らの輝き?いいねいいね!」 「えりかさんのパートは、わけっこしましょう?」 「うんっ」 そう、私はこの期に及んでまだ、お嬢様ちっさーの天然と一途さを侮っていたのだった。 この後連続数十回、この軽快なイントロを聞かされる羽目になるとは、私はまだしるよしもなかった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「え・・・」 「お嬢様を、お手伝いに?」 室内のざわめきを両手で制して、私は言葉を続けた。 「えと、まず有原さん。彼女は学業面だけでなく、人格的にも大変優れていると思われます。 私はまだ2日しか一緒にすごしていませんが、そんな短い時間の中にも、有原さんの素晴らしさをひしひしと感じる出来事がいくつもありました。 その優秀な能力を、生徒会で発揮して欲しいと思い、推薦した次第であります。」 うん、なかなか綺麗にまとまった。みぃたんなんて、口半開きでもうすでに笑顔になっている。これは、OKだろうな。ってまだ肝心の栞ちゃんの答えを聞いていないんだけど。 「ごめんね、許可ももらってないのに。どうかな?生徒会の役員、やってくれない?」 「うーん・・わかった!お役に立てるかわからないけど。生徒会で仕事をしてたら、自然に学校のことも覚えられそうだし。」 生徒会室に連れてこられた時点で、こうなることをある程度予想していたんだろう、栞ちゃんは意外にあっさりと私の申し出を受け入れてくれた。 「うん、私も賛成。栞菜がいてくれたら嬉しいな。」 満面の笑顔の愛理。 「私も賛成します。まだ栞菜ちゃんのことはよく知らないけど、なっきぃが推薦する人だもん。これからよろしくね。」 清水先輩はニコッと笑って栞ちゃんに手を振った。 「ウチも賛成だよー。もうね、書記がいなくて大変だったんだから。うしし、これで生徒会のお手伝いの回数も減らせるわ」 「何言ってんの!えりこちゃんにはまだまだまだまだまだ仕事してもらうんですからね!風紀委員のほうもね!」 「あ・・・あの・・・・・」 ふいに、ずっと黙っていた千聖お嬢様がおずおずと口を開いた。 「私、あの・・・どうして・・・」 お嬢様は喜怒哀楽が表情に出やすい。今私を見つめる顔は、可哀想なぐらいに不安ととまどいで曇り切っていた。 「はい、理由は、お嬢様がお暇だからです。」 「ひ、暇ですって?」 お、少し目に力が戻った。 「いいですか、お嬢様。お嬢様は、放送委員でしたね?でもお嬢様に割り当てられた仕事といったら?はい、放送委員えりこちゃん!」 「月に一回、放送室のマイクのスイッチを入れるだけでーす。」 「それは、だって・・・皆さんが・・・千聖には何もしないでほしいって・・・・・座っててくれればいいって・・・」 「あーら、それじゃあお嬢様は、そんな簡単な仕事しかできないのかしら?まあ残念、なっきぃは、お嬢様はもっと優秀な方だと思っていたのに。キュフフ」 挑発する私を、お嬢様は口をへの字にして睨みつけてきた。 「っなっきぃのいじわる!私だって、本当は色々できるわ!」 「でしたら、生徒会のお手伝いをしていただけますか?毎日じゃなくていいんです、お昼休みと放課後、お暇な日があったら寄ってくだされば、誰かしらいると思うので。」 「・・・わかったわ。皆さん、どうぞよろしく。見てらっしゃい、なっきぃのことびっくりさせてさしあげますから。」 お嬢様は一礼して、くるりと背中を向けた。 「あれ?お弁当一緒に食べましょうよー。舞美、パン買いすぎちゃったからお嬢様にあげますよ。」 「いいえ、今日は桃子さんと屋上でお弁当を食べるお約束があったので。また放課後に来ますわ。ごきげんよう」 「逃げちゃだめですよ、お嬢様」 「・・・いじわる!」 お嬢様は思いっきり顔をしかめて、今度こそ生徒会室から出て行った。 「いやー・・・なっきぃ、うまいねぇ~。ウチ見惚れちゃったよ。」 えりかちゃんがなぜか握手を求めてきた。 「本当、私もあんな風にお嬢様を乗せることできないよ。」 愛理も立ち上がって、私の肩をポンと叩いた。 「本当、なっきぃは頼りになるね!」 背後から栞ちゃんのハグ。 「私、千聖お嬢様とは全く関わりなかったから知らなかったけど、ああいう感じなんだねー。なっきぃの接し方を参考にするね。」 清水先輩も満面の笑みで近づいてくる。 「ちょ、ちょっと、みんな・・・?何何?」 「なっきぃは最高だね!」 「なっきぃ!なっきぃ!」 「なっきぃ!なっきぃ!」 「なーっき、ヲイ!なーっき、ヲイ!」 ひええ!何だこれ! ホ、ホストクラブ? 「よし、お嬢様をギャフンと言わせたなっきぃを祝福しよう!とか言ってw」 ギャフン?みぃたんまた日本語違う・・・と突っ込もうとしたら、いきなり体が宙に浮いた。 「ええええ!?ちょっと、やめて!怖い!」 何がどうなったらこのタイミングで胴上げなんだ。みんなの腕力(8割みぃたん)で、私はなすすべもなく空を舞い続ける。 「なっきぃが優秀な副会長で、私は幸せだよ!」 「うん、舞美の言う通り!」 そう、生徒会のメンバーはあまりにもノリが良すぎる。特に、みぃたんの変なテンションには全員で引きずられてしまう傾向があった。 こういう時はストッパーになってくれるはずの清水先輩まで、今日は多幸感溢れる表情で私を見守っている。 「も、もういいですありがとう!パンツ!パンツ見えちゃうから!勘弁して!」 息も絶え絶えに懇願して、やっと解放してもらった私は、涙目で顔を上げた。 「うわっ!」 いつからいたんだろう、ドアの隙間から、ドン引き顔の千聖お嬢様が怯えたように私を見ていた。 「ち・・・千聖様・・・これは・・・」 ゆっくりとドアが閉まって、廊下をパタパタと駆けていく音が響いた。 放課後、来なかったりして・・・ いまだにテンション高くハイタッチを繰り出しているみんなの輪の中で、私はこっそりため息をついた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「そうなんだ」 真剣な表情で佳林ちゃんの答えを聞いたお姉ちゃんだったが、一呼吸おくと何かに思い当たったかのようにその表情が強張ったように見えた。 「あっ、、、でも、まさかそんな・・・ あの学園で本当にそんなこと・・・」 務めて感情を抑え気味にしている様子のお姉ちゃんが佳林ちゃんに重ねて質問をする。 「佳林ちゃん、いじめられてるんだね?」 あえてストレートに聞いたのかも知れないお姉ちゃんが口にしたその言葉に僕の緊張もこの上なく高まる。 彼女の持つ出生の秘密。 それを心無い人たちに知られてしまい、そのことで苛められたりしているってことか。 小学生ぐらいの年頃だと他人の心の痛みというものに残酷なほど無頓着だろうから、その標的とされて・・・ あぁ、何と言うことだ。佳林ちゃん・・・・・ いじめ。 そんな耐え難い苦難がこの彼女の上に降りかかっているなんて。 彼女の可愛らしい姿からは、そんなことまるで窺い知ることが出来ない。 この小さい体でひとり受け止めているというのか・・・ なんていじらしい・・・ そんな彼女に対して、僕はどうやって接すればいいんだろう。 出来ることならば、僕が傍らに立って彼女を守ってあげたい。でも彼女が通っているのは男子禁制の学園の初等部。 いま僕が感じているのはただ無力感だけだった。 すっかり重たい空気となってしまったこの場の雰囲気。 だが、お姉ちゃんの固い口調とは対照的に、佳林ちゃんの返答は意外なほどさっぱりとした口調だった。 「え? いや、全然そんなことされたりはしていないですよ?」 「でも、お嬢様があのとき言ってたのは、、、そのことでめぐと言い合いになってしまって、、、そうだったよね?」 ・・・いや、僕に聞かれても。 お姉ちゃんが何を言ってるのか、その意味すら全然分からないんですけど。 でも、目の前の佳林ちゃんはお姉ちゃんの言ったことに反応を示す。 「?? お姉さまが何か?」 「そうだよ! あのときお嬢様は佳林ちゃんが苛められたりしてるんじゃないかって!!11」 思い出したことが刺激になったのかちょっと興奮気味になったお姉ちゃんだったが、当の佳林ちゃんはその言葉を聞くと何故か吹き出したんだ。 「あぁ、あのときのこと、ですね。それは全部みなさんの勘違いですよ」 小さく笑う佳林ちゃん。でも次の瞬間、彼女の表情が変わる。 その円らな瞳が遠くを見つめた。 「でも、お姉さまが私のことであんなに・・・ 嬉しかった・・・」 そう言った彼女の瞳が潤んだものになったのを僕は見逃さなかった。 話しの流れが僕にはさっぱり分からないけれど、きっと佳林ちゃんにとっては自分の姉たる千聖お嬢様との大切な思い出なのだろう。 緊張感が続くようなこの場の雰囲気。 口に出す言葉すら見つからない僕の今の頼みはお姉ちゃんだけだったけれど、そこはさすがに年長者。 お姉ちゃんは、ふっと包み込むような優しい微笑みを浮かべて佳林ちゃんの言葉を受けた。 「そうだよ、佳林ちゃんにはお嬢様がいるんだから」 お姉ちゃんの言ったことに笑みを浮かべた佳林ちゃん。 だが、切り替えるように表情を真顔に戻すと、再び話しを戻した。 「それでも、やっぱり私には友達と呼べる人は少ないんだと思います」 「休み時間も一人で過ごすことが多いですし・・・・」 「そんなの別に気にするようなことじゃないよ。なっきぃだってしょっちゅう一人ぼっちだよ!」 お姉ちゃんが言ったことに、佳林ちゃんの表情が緩んだ。(緩んだ、というか、吹き出しそうになった、とも受け取れる表情だが) 意を決して悩みを打明けているのかもしれない後輩の告白を、すぐに受け止めてあげられるお姉ちゃん。 さすが元生徒会長さんだ。 だからこそ、佳林ちゃんも安心したのか言葉を続けたわけで。 「あ、もちろんクラスにも友達はちゃんといますよ。小もぉの子たちだって今でも友達です」 「ただ、本当の親友という意味となると・・・ やっぱり私には友達が少ないのかも」 「でも、一度は離れそうになってしまった遥ちゃんが私のそばにいてくれるから。 彼女がいてくれれば、それだけでもう十分なんです」 「工藤遥ちゃん。私にとってとても大切な、昔からの友達・・・」 心の内を長く語ってくれる佳林ちゃんの言葉を受けて、お姉ちゃんが言葉を返した。 「工藤遥ちゃんっていうと、えーと・・・ 分かった!あの子か!団地妻とか言われてる!!」 「いえ違います。それはたぶん聖ちゃんのことですね。確かに中等部の譜久村さんにも親しくしてもらってますけど」 「あれ? また間違えちゃったw わたし後輩の名前を憶えるのがどうも苦手で・・ しょっちゅう間違えちゃうんだよね。あははは」 「遥ちゃんは私のひとつ下の学年なんですけど、私と違ってとても行動的だし、さっぱりとした性格は明るくてみんなの人気者です」 「佳林ちゃんだって人気者じゃないか」 「人気者?私が? そうでしょうか?」 「人気者っていうのは、そうですね、同学年だと鞘師さんみたいな人のことを言うんじゃないかと思います」 「サヤシさん?」 「知りませんか?鞘師里保ちゃん。彼女は本当に積極性があって活動的で。生徒会でも部活でも活躍しているし、まさしく私のイメージする人気者です」 「鞘師、ちゃん・・・ どこかで聞いたような・・・」 「生徒会長さんも活躍されていた陸上部のエースと言われている子ですよ。初等部なのに飛び級で先輩達の練習に参加するぐらいの」 「あぁ、あの子か! 思い出したよ!とってもカワイイ子だよね。うん、あの子の動き、とても愛くるしくて!!本当にカワイイ!!」 「そして、友達だなんて、そんなことはおこがましくてとても言えないですけど」 そう前置きして語ってくれたのは、いよいよ千聖お嬢様に関することだった。 「千聖お姉さま。私が苦しんでいるとき救いの手を差し伸べてくれた方・・・」 「お姉さま・・・・ あの時、もし千聖お姉さまがいなかったら今ごろ私は・・・・・」 「うんうん。佳林ちゃんが妹になって、お嬢様もそれはそれは嬉しそうだったんだよ?」 「お姉さまが?」 「うん!それはもう!! お嬢様もやっぱり小さい子が大好きなんだね!!」 妹になったって、またその話題にいくのか。 お姉ちゃん、その件についてはあまり触れたりはしない方が・・・ でも、あまりタブー視したりするほうが却って傷つけたりしちゃうんだろうか。 そのことでは佳林ちゃんにどうやって接するのが一番いいのか、僕にはちょっと分からなくて。 それでも、やっぱりその話題は軽い気持ちで扱えるものでは無いのは間違いないわけで。僕なんかが聞いててもいいことなんだろうか・・・ お姉ちゃんがそんな僕の表情を見て、僕の思っていることを察知してくれたようだ。 「そうか、意味が分からないんですね?」 ?? お姉ちゃんが僕に問いかけてきたその質問こそ意味が分からないんですが・・ 僕に向かってそう言った美人さんは、笑顔で頷くと言葉に詰まっている僕へ更に話しを続けられた。 「佳林ちゃんはね、千聖お嬢様と姉妹の契りを交わしたんですよ。それでお嬢様の妹になられた!」 姉妹の契り・・・・ はい?? なんですか、それは?? 予想もしていなかった説明を受けて、思わず混乱してしまった。 平凡な男子高校生には想像もつかないその言葉に、まるで現実感というものを感じることが出来なかったし。 でも、独特の香りが漂うその名称。 その単語は僕の意識の中で何か引っかかるものを感じたんだ。 そして、思い出した。 同じ単語を以前に聞いたことがあったということを。 あれは、熊井ちゃんが僕の高校にやってきたときのこと。 そのときに彼女が言っていたことに、いま思い当たったのだ。 彼女が僕の下駄箱を覗き込んで言ったとき出てきたのが耳慣れないその名称だったな、確か。 熊井ちゃんの妹になろうと申し出た人たちのその後も気になるところだが、それよりも今は、千聖お嬢様にそういう申し出をしたという佳林ちゃん。 その申し出が晴れて受け入れられた結果、佳林ちゃんは千聖お嬢様の妹となったと、そういうことなのか。 熊井ちゃんから聞いたときは、小熊軍団を妄想させられたその制度の趣旨にイマイチ賛同できなかったのだが、 目の前のこの佳林ちゃんと、そして、千聖お嬢様との2人の微笑ましい間柄を思うと、素晴らしい制度のように思えたのだった。 ん? 待て待て!? ちょっと話しを戻そう。 この佳林ちゃんは千聖お嬢様と姉妹の契りを交わしてお嬢様の妹になった? 妹になっていうのは、あくまでも学園生の間で流行っているというその制度のうえでのこと? ってことはさ・・・・ 佳林ちゃんは千聖お嬢様の腹違いの妹ってわけじゃないのか! 僕の勘違いだったのか・・・・・ ・・・またやってしまった。 早 と ち り。 一人で先走ったあげくの、完全なる脳内妄想。 断片的な情報を基に脳内で物語を作り上げていってしまう僕のこのクセは、いいかげんちょっとどうにかしたほうがいいな・・・ あまりの勘違いっぷりに、さすがに凹む。 そんな、一人で若干ちょっと落ち込んでいた僕だったが、顔を上げて佳林ちゃんの顔を見ると気持ちが上向いた。 見た人全ての心を明るくする彼女の愛くるしい表情が、いま落ち込んでいる僕の心を上向かせてくれたんだ。 こんな笑顔の彼女が人気者じゃないわけがないじゃないか!!(二重否定=強い肯定) そして、いま彼女が語ってくれた千聖お嬢様への想い。 語ってくれた彼女の表情を見れば、そこにあるのはひたすら純粋な気持ちだということが一目で分かる。 そんな彼女のことを、お嬢様は自分の妹として受け入れられた。 いまさっき僕が聞いたお姉ちゃんとの会話の内容、それだけでも二人の揺ぎ無い信頼関係を感じることができた。 佳林ちゃん。 千聖お嬢様が妹として大切にしている存在。 次へ TOP
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前へ “昼休みは学食の席を取っておいてね” 大学に入っても僕は席取り係の役を当たり前のように続けさせられている。 熊井ちゃんに促されて学食の席取りに向うため教室を出ようとしたとき、クラスの女子からクスクス笑われてることに気付いたんだ。 なんか彼女たち、手に持ってるスマホの画面を指差しあいながら笑ってる・・・ また何かネットに転がってた面白画像でも見つけたりしたんだろうけど、僕を見て笑ってるのは何故だろう。まったく・・何だって言うんだ。 なにか今日は心が乱されることばかりが続く・・・・ 今日はそういう日なのだろうか。 ってことは、ひょっとしたらこのあともまだ・・・ 学食に着き、いつもと同じ場所の窓際のテーブルを確保(ここじゃないと自称リーダーの機嫌が悪くなるよ)。 無事に席を確保できたことでホッと一息つく。ようやく落ち着くことができた思いだ。 熊井ちゃんが来るまでの少しのあいだリラックスさせてもらおう。 そうやって一人で物思いにふけりながらボーッとしていると、僕が陣取っているテーブルの対面の席、その椅子を引いて座ってきた人がいた。 えっ? いくら混んでるとはいえ、一言の断りも無しに相席する気かよ。おいおい・・・ もぉ軍団のショバに座ろうだなんて、いい度胸してるな・・・ ここのしきたりってものを知らない新参か? でも、それを許したりしたら自称リーダーから僕が叱責されることになってしまうだろ。おいちょっとあなた! 目の前に座った人。 それは思いがけない人だった。 「よっ、少年!」 「も、桃子さん!?」 「ウフッ。来ちゃった♪」 軍団長、降臨。 (なるほど、確かに今日は心が乱されることが続く一日のようだと今あらためて痛切に実感・・・) 濃淡ピンクのチェック柄もまばゆいその格好。トレードマークの、その特異な二つ縛りの黒髪。 どちらかというと地味目なこの大学の学生の中で、明らかに異色と言うか浮きまくりの桃子さん。うん、さすがです。 そんな桃子さんが、僕に対してとっても楽しそうな視線を向けてくる。そう、いつものようにね。 この人のことだ。僕が大学生になってもおもちゃ扱いは変わらないってことなんだろう。いいんですけどね、別に・・・ 「ウフフフ。大学生になっても席取りの任務は変わらないんだ。得意中の得意技だもんね、席取りw」 「・・・それぐらいしか取り得もないですから、僕は。。。」 「あれ? なに?暗いじゃない。昨日はあんなに楽しんでたみたいだったのに」 「いえ、ちょっと・・・ ってか、桃子さんどうしてうちの大学に? それに、よくここが分かりましたね」 「もぉ軍団の部室が出来たって聞いたから遊びに来たの。この時間なら学食の席取りしてるはずだからって、くまいちょーから聞いてたからね。すぐ分かったよw」 僕らの大学にやってきた軍団長。 今日は部室の視察という名目で遊びにきたらしい。 遊びに来たって・・・ ひょっとしてこの人結構ヒマなのかな。 でも、桃子さんが来てくれたこと、僕は嬉しかったんだ。 いつも明るい桃子さん。その姿はいつだって見る人の気分をも明るくしてくれる。 今も、現れた桃子さんの姿を見て、落ち込みきっていた気持ちがちょっと上向いた。 それに、昨日は心残りがあったんだ。遅れて行ったそのライブが終わったあとも軍団長とは話すことが出来なかったんだから。 だから、僕はいま桃子さんと会えたことが結構嬉しかった。 「そうですか! それでうちの大学に!」 「うん。でもそれよりさ、お昼ごはんにしようよ。くまいちょーは来れないみたいだけど」 「えっ?来れないって・・・ ついさっき、席取りしておくように言ってたくせに。何をしてるんだろ。聞いてますか?」 「さっきメールしたら今ちょっと忙しいから先に食べてて!だって。で、後で部室で会おうね、ってそれだけ言ってたんだけど」 「そんな急に忙しくなったって、熊井ちゃん、何をし始めたんでしょう・・・・?」 「さあ? でもきっと楽しいことじゃない?ウフフフ」 桃子さんにとっては楽しいことでも、それが僕にとっても楽しいことだとは限らないわけで。 ------------- その頃、教室ではクラスメート全員を前に壇上から楽しそうに長説明を始めた熊井ちゃん。 川*^∇^)||<どうしてあいつが暗くなっているのか、説明しましょう!!(ドヤ顔) 川*^∇^)||<あいつがどうして暗くなってるのかというとー、どうせまた舞ちゃんが振り向いてくれなかったとか言っていじけてるだけでーw なんか暗くなってたけど、まぁいつものことだから何も心配しなくていいからねー! あまり構うと付け上がるから決して甘やかしたりしちゃダメだよ。 でー、舞ちゃんっていうのはー、あいつがもう何年もカタオモイの学園生の子です! 初めて見たときに一目惚れしちゃったんだけど、そのときの舞ちゃんはまだ中学2年生! あいつ、いくら若い女の子が好きだからって、ちゅ、中学生wプフォ それ以来、舞ちゃんにずっと付きまとっててー、勢い余って無謀にも告白したんだけどもちろん見事に玉砕しちゃったのねw キッパリと振られたのにそれでもあきらめきれなくて、今でも舞ちゃんのこと追い掛け回してるの。凄い粘着だよねー。 で、今朝もいつものように登校する舞ちゃんを待ち伏せしてたんだろうけど、案の定まったく相手にしてもらえなかったんだよきっと。 それであんなに暗くなっちゃったってわけw ハイ、このプロジェクターに注目! 舞ちゃんっていうのはこの子です!! http //chisamai.jp/img/cm_09318.jpg (おぉっ!!) あれ?間違えたw こっち!!この子が舞ちゃんです!! http //chisamai.jp/img/cm_09197.jpg (「こりゃ無理だろw」「身の程知らず過ぎるww」という声が教室中からあがる) ----------- カフェテリア方式の学食。プレートを持って列に並ぶ。 混雑しているこの時間。いつもの光景の中に、今はそこに桃子さんが並んでいる。すごい違和感だ。 実にシュールな光景だが、周りの人は見て見ぬ振りをしてスルーしている様子。これ、熊井ちゃんを見たときの周りの反応と全く同じだ。 さすがもぉ軍団の偉い人たち。まとっているオーラがケタ違いだよ・・・ 「立派な学食だねー。この建物ぜんぶ学食なんでしょ」 「まぁ、学食しか食べるところもないですから。ご覧の通りキャンパスは山の中ですからね」 「へー、メニューも豊富なんだね。少年、何にする?」 「そうですね、僕はからあげ定食にしようかな」 「じゃあ、もぉはこの超熟成牛ステーキカレーってのにするね、ごちそう様♪」 「・・・・僕がおごるんですか?」 「当たり前じゃない。ウフッ♥」 いつから当たり前になったんだろう。 もぉ軍団に関するカネの流れに関しては一度追求しようと思いつつもう何年も経っている気がする。 僕がバイトしてもバイトしても、その度に何か一方的に吸い上げられてるように感じること、それだって気のせいではないよね。 まぁそのあたり、指摘するのは何かアンタッチャブルなことに触れるようで、そんな勇気は僕にはとても無いんだけど。 もしそんなことしたら、あの大きな熊さんの逆鱗にでも触れて消さr・・・・ そういえば先日の誕生パーティーの店代のことだって、ちょっと納得いかないんですよね。 なんで開催にかかった経費を僕が一人で丸かぶりするのか。おかしいでしょ。 そのときのライブUSBとDVDであんなに儲けてるんだ(熊井ちゃんからその額を聞いて僕は腰を抜かした)。 だったら、儲けてる某事務所社員さん、あの店代ぐらいその莫大な売り上げの中から払ってくれてm・・・ 僕にはいろいろと腑に落ちない点があるが、その辺のことにあまり頭を突っ込むことはしない方がいいのかも。 何かアンタッチャブルなことに触れるようで(以下同文 あぁ、そのライブDVDの件も疑問なのだ。 熊井ちゃんは一人ホクホク顔で高笑いしていたけれど、あの映像の著作権(?)というものはBuono!の皆さんにあるんじゃないのか? DVD販売における収益の分配というかその辺のやりとりはどうなってるんだろう・・・ でもまぁ、それは僕が考えることじゃない。もぉ軍団とBuono!の皆さんの間の問題だ。僕には関係の無いこと。 だが、いま目の前にいる笑顔の桃子さんを見ていると、そのことが僕はとても心配になるのだ。 本当に僕は無関係でいられるのだろうか・・・ 熊井ちゃん!お願いだから、雅さんや愛理ちゃんには絶対に迷惑をかけないでね。そして桃子さんにも(←今はここを特に)! 「さあ食べよー!」 おいしそうに食べる桃子さん。見るからに美味しそうなステーキを一口食べては目を細めたりして。 その姿に、カワイイ・・なんてちょっと思ったが、そんなこと思ったこと僕は決しておくびにも出さない。 一方からあげに箸をつけた僕へ、軍団長が声を掛けてくる。 それは予想外の言葉だった。 「梨沙子の誕生パーティーはいろいろとお疲れさま」 軍団長の口から出たその信じられない単語に、僕は箸を持ったまま思わず固まってしまった。 「ア、アリガトウゴザイマス・・」 「梨沙子、喜んでたよー、すっごく」 「それは良かったです。桃子さんの企画、大成功だったんですね。さすが軍団長」 「それにしても、突然みやが現れたときの梨沙子のキモさったら(ry」 「いい企画でしたよね。・・・そうだ!こうやって梨沙子ちゃんの誕生パーティーも成功したことだし、あの!来週は愛理ちゃんの誕生日だし、その日も誕生パーティーしましょうよ」 「却下」 ぐんだんちょー即答。 直前からの一転してその不機嫌そうな表情。 「もぉのときはやんなかったくせにさぁ」 くちびるを尖らす桃子さん。 あ、これまたちょっとカワイイ・・・・ しかし、桃子さんの誕生日には何もしなかったこと、まだ根に持ってるのか。 だって、ちょうどその時期は毎年忙しいからどうしても忘れてしまu いやいや、そうじゃなくて僕は今年は受験もあったわけですし、しょうがなかったんですよ。 受験が終わったらもう授業も無いからそれからはずっとバイトに精を出してたし。 それに、そういうことは僕にじゃなくて、発言権のある軍団の上の方の人に言ってほしいんですよね。 「それにしても、さすがのライブでしたね。さすがBuono!の皆さん。梨沙子ちゃんも楽しんでたみたいで」 「梨沙子ねw あの子、みやのコールとか声デカすぎだからw まぁいつものことだけど、あの美声を惜しげもなく使ってさーw で、少年はどうだったの?楽しめた?」 「はい! 最後の初恋サイダーしか僕は見れなかったんですけど、感動しました!!」 「少年がピンクのサイリウム振ってくれてたから嬉しかったよ。でも、少年、推し変したの?」 いや、あれは緑サイを忘れたから、たまたまそこに誰も手をつけずに放置されてたピンクサイをこれでいいかとしょうがなく・・・ 「いえ、推し変とかそういうわけじゃないですけど、軍団長を応援するのは出来る団員の僕としては当然の行為(震え声)」 「そっか。もぉの魅力に、ついに少年もピンクサイを持つようになったんだね。分かるよ、その気持ち♥」 ニッコニコ顔の桃子さん。とても楽しそう。 「もぉのファンがまた一人増えちゃったか~。もぉがかわいすぎて、ゆるしてにゃん♪」 いや、だから、それ違u 「ピンク色のTシャツ、少年にも似合うと思うよ。次のライブでは是非着てきてね」 「いや、あのイラスト入りのピンク色のTシャツ、どこで売ってるのかも知らないですから」 あの独特のTシャツを着こなせるようになる為には、越えなければならない一線があるような気がする。 そして、僕はまだそこまでの覚悟というものを持ち得ていない。 「さて、そろそろ行こうか」 「えっ? 行くってどこにですか?」 「部室へだよ、我がもぉ軍団の。それにしても、くまいちょーすごいじゃない! もう学内に部室を確保しちゃったなんて」 「確保っていうか、強奪といった方が適切な行為でしたけどね」 「あはははw やっぱりそうなんだw」 「すごいですよ、熊井ちゃんの行動力は。どこからあのパワーが出てきてるんですかね。こうと決めたら猪突猛進で」 「くまいちょーは気が早いからねー。少年ものんびりとしてちゃダメでしょ。ほら、今だってそう。さっさと行動する!」 「ひとりで食事できるときぐらいのんびりとさせてくださいよ。ただでさえ引っ張りまわされてるんだから」 「なに言ってンの。さぁ早く行くよっ」 僕の言ったことはまともに聞き入れてはくれないという、もぉ軍団の人特有の僕に対するその対応。 ましてやこの人は軍団長なのだ。 若干あきらめが入った表情になっていたかもしれない僕に、桃子さんが殊更にこやかに告げる。 「じゃあ、少年に案内してもらおっかな」 次へ TOP
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前へ 部室のあるサークル棟までは結構距離がある。 そんな学内を桃子さんを隣りにして歩いていく。 一緒に歩いているとは言っても、この人は決して歩調を合わせたりはせず、気ままに立ち止まって周りを見回したり、そうかと思ったらおもむろにスキップし始めたり。 「あれが僕らの学部棟です。サークル棟はここから反対に図書館の前を通って真っ直ぐ行ったところです」 桃子さんの、そのぷりぷりとした歩き方。 エキセントリックな人だよ、本当に。 でも、そんな桃子さんと一緒に学内を歩くこのとき、僕は正直かなりウキウキとした気分になっていた。 だって、何だかんだ言って、桃子さんってその、やっぱりかわいいから。 そんな人を横にキャンパスを歩くのってさ・・・・ 高まるんだよね。 だから今僕はけっこう嬉しかったりして。 「ふーん、ここがくまいちょーの舞台となるキャンパスかぁ」 恐ろしいことを言わないでください。 「くまいちょーのryって・・・ でも確かにそうなのかもしれないです。早くもその名を学内に轟かせてるし」 「もうそんなに有名なんだw さすがだねーw」 「今も学食にも顔を出さないで、どこで何をしてるんだか。また何か問題を起こしてなければいいけど」 「くまいちょー、忙しいんだね」 「えぇ、なんか毎日飛び回ってますよ。何をしているのかよく分からないことが多いですけどね」 「張り切ってるねー。まぁ、毎年恒例のアレだね。くまいちょー、毎年この季節になると張り切っちゃうからw」 「えぇ、そうですね。もうちょっとして春が終われば落ち着いてくれることでしょう」 だといいんですけどね・・・ 「ここがサークル棟です。軍団の部室は、この5階になります」 「へー、いかにもって感じだね。見て見て。中庭に七輪でサンマを焼いてる人がいるよw」 「昼食を自炊してるんでしょう。この建物には色々な人がいますから」 「学園の大学とはだいぶ雰囲気が違うなあw」 「そうなんですか? まぁここには変わってる人が多いとはいっても、ダントツなのは熊井ちゃんry 雑然としているこのサークル棟に全く似合わないそのピンク色の人がブリブリと階段を上っていく。 なかなかシュールな光景だ。 しかし桃子さん、そのミニスカート姿で前を歩かれると・・・ み、見えそう・・・ 非常に高度な葛藤と戦いつつ階段を上りきり、そこから暗い廊下をすすんでその真ん中あたり右側にあるドアを開ける。 昨日からもぉ軍団の部室となったこの部屋。 そこにあった、いかにも座り心地のよさそうな長いソファーに身を投げ出したかと思うと、そこにちょこんと座る桃子さん。 その(コンパクトな)脚を投げ出すように伸ばし、その膝にこれまた伸ばした手を置いて周りを見回している姿がとても可愛らしく・・・ ・・・って、あれ? なんだこのソファーは? 昨日は無かったぞ、こんな立派な備品。どうしたんだろう、これ。 頭の中に疑問が浮かんでいる僕の耳に、桃子さんの声が入ってくる。 「ふーん、ここがもぉ軍団の部室ね。なかなか立派なものじゃない」 「熊井ちゃんが不法占拠しちゃったんですけどね」 「もともとはどこのサークルの部屋だったの」 「この間仕切りで仕切ってある向こう側は、今でもそのサークルの部屋ですよ。アイドル研究会です」 「アイドル研究会?」 ソファーを立った桃子さん、今度は座椅子の上に立ち上がり、間仕切りに手を掛けて上から覗き込もうとした。 目の前の光景。そう、いま桃子さんはミニスカート姿なのだ。 その彼女が椅子の上で背伸びをして、つま先立ちで向こう側を覗き込んでいる。 今度こそ、その光景に思わず見入ってしまいそうに・・・ 「誰もいないや。つまんないの」 どんな人たちなのか見てみたかったのに、なんて言って笑う桃子さん。 でも、このサークルの部長さんは、そうあの桃ヲタさんだ。 うーむ。会ったりしたらどうなるのか見てみたい気もするが、非常に危険だ。このピンクの人達は僕にとって警戒対象・・・ 「なるほど、いかにもアイドル研究会!って感じの部屋だねー。こういうのは梨沙子の得意分野じゃない?」 普段の物静かで理性的な梨沙子ちゃんしか知らなければ、彼女がこんなヲタ部屋を見たりしたら「あばば、ギャフン」と逃げ出すに違いないと思うだろう。 ところが、もぉ軍団でこの部屋に一番ハマりそうなのが、実はその梨沙子ちゃんなんだから、世の中わからないものだ。 彼女のあの雅さんへの熱狂度合いを見る限り、梨沙子ちゃんならこの部屋の雰囲気にも十分に馴染めると思われる。 いや、それどころか、あっという間にこの部屋のヌシ的ポジションになってしまうんじゃないか? ヲタモードの時のりーちゃんって、とにかくすごいから。 「見て見て。色々なポスターが貼ってあるよ」 そう言って桃子さんが急に振り向いてきた。 おっと、、、僕は慌てて居住まいを正す。 危ない、危ない、、、 ←(何が?)。 僕を見下ろしている桃子さんの、無邪気で楽しそうなその表情。 この人、(見た目は)本当にカワイイな。 ・・・ゴホン。 でも、貼ってあるよって言われても、僕の位置からはもちろん衝立の向こう側のポスターなんか見えないですよ、桃子さん。 部屋の半分を占拠されたアイドル研究会。 備品の整理ももうついたみたいで。 もぉ軍団のムチャ振りを受け入れて落ち着いてくれたことにホッと安心を覚え、どのような感じになったのかな?と、僕もちょっと覗き込んでみた。 おー、大量のグッズ類や本・DVDも壁面一杯に使ってしっかりと収納し直されている。 うまいもんだw ヲタという人種は結構マメな性格の人が多いのかな。 そこに貼ってある一枚のポスターが、僕の目に入ってきた。 あ、僕が好きな5人組アイドルグループのポスター。 その端っこに立っているメンバー。似てるよなぁ。 舞ちゃん・・・・・ 今朝から僕の心を重くしていた苦悩をまた思い出してしまい、思わず顔を伏せてしまう。 だから、そのとき桃子さんがとっても楽しそうな表情を浮かべたのには気付かなかったのだ。 心が沈んでいきそうになった僕の耳に、桃子さんの声が入ってくる。 不意に語りかけられた軍団長の言葉。それは予想外の言葉で、そして、その声はとても柔らかいものだった。 「何か悩みがあるならもぉに話してごらん?」 俯いていた顔をあげると、小首を傾げて覗き込むように僕を見ている桃子さんと目が合った。 その黒く円らな瞳に、意識が吸い込まれそうに・・・ 「舞ちゃんのこと、何かあったの?」 「な、な、な、なんでそれを・・・・ 何で舞ちゃんのことを考えてたって分かったんですか!?」 僕の叫ぶような声を聞いた桃子さんが苦笑する。 「だって、いま呟いてたじゃない。『所詮は男と女・・・ そうか、舞ちゃん!!』って」 また無意識に口に出していたのか僕は。 そんな核心的なことをハッキリと。よりによってこの桃子さんの前で。 「何が“そうか、舞ちゃん!”なの? 何を思いついたのか、その言葉の続きを教えて?」 次へ TOP
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梨沙子が千聖を値踏みする目でじっと見ている間、千聖は自分がそんな目で見られているとは知らずに落ち着かずにいた。 クラスでも美人でふくよかな胸を持つ彼女は、男子たちの間では注目の的である。 その彼女の家に、普段から特別仲が良いわけでもない自分が呼ばれた理由がわからないのがむず痒い。 梨沙子は勉強を見てあげる、などと言いだして自分を家まで誘ってきたが本当だろうか。 自分だって決して勉強が出来ると言えるレベルではない梨沙子が、千聖に勉強を教える意味はあるのか。 彼の胸中に渦巻く疑問は大きくなるばかりで、はっきりとした答えを見出せないまま時が過ぎていく。 しかし、梨沙子への疑問も彼の性格故に「まぁいいか」の一言で片づけられてしまった。 千聖の場合、このまま考え続けたとしても結局梨沙子が自分の貞操を狙っているとは考えつかなかったのは確実である。 知らぬが仏とも言えるが、それは梨沙子にしても同じことが言えた。 勉強を教える口実で呼び出したのは、我ながら実によく出来たと感心する。 隣に座ることでお互いの肌と肌が触れ合う距離になるから、どんな鈍感な男でも意識せざるをえない。 女には興味がありませんよ、って顔をしていても私の隣に座ったからには絶対に逃がさないんだから。 もしも、隣に座っても反応がないなんてことになったら、自慢のこの胸をさりげなく押しつけ、否応にも意識させてやる。 男子が素知らぬ顔をして、私の胸ばかり見ていることはとっくに気づいているのだ。 千聖だって男なんだから、腕に胸が当たれば興奮してきて高鳴る衝動を抑えられなくなるはずだ。 確証があるわけじゃないけど、経験を済ませた女の子たちの話を聞いても、これはいい作戦だと思う。 でも、私に自分から男の子に自然と胸を押し付けるなんてことが出来るか心配だ。 考えているうちに全身から汗が噴き出てきて、千聖をそわそわさせるはずが自分がそわそわしだした。 まずい、緊張して落ち着かなくなると何故だかアソコを触りたくなってくる。 スカートの裾をギュッと握りしめ、指先に神経を集中させて触るな、と命じる。 千聖にはあんなはしたないことをする私を見られたくなんかない。 お調子者のこいつに見られてたりしたら、きっと学校中の噂になって登校できなくなっちゃう。 なのに、緊張すればするほどに手は腿をしっかり掴み、スカートの内側へと侵入していく。 やめて、お願い・・・私の体よ、止まって・・・ 「りーちゃん、どうしたの? さっきから気持ち悪そうな顔しているよ」 突然、千聖から声をかけられて驚いて私はとっさに手を背中へと回した。 危なかったと思うと同時によかった、と心からそう思ってしまった。 千聖が声をかけてくれなければ、私は今頃アソコへと伸びていた手が動いていただろう。 まさかこんなところで千聖から助けられることになるとは、敵から塩を送られた気分に近い。 「何でもないの。心配いらないから。さっさとノートを開いて勉強の準備して」 「はぁ~い。心配いらないならいいんだけどさ」 平静さを装い、千聖の横に座布団を敷いて座り、ようやく勉強に入ろうとしていた。 この後の自分の運命がどうなるかも知らずに呑気な千聖に、勉強は勉強でも体で覚える保健体育の勉強なんだよ、と心の中で呟きながら。 ←前のページ 次のページ→
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前へ 「ん・・・」 おでこに冷たい感触を覚えて、目を開けた。 「あれ・・・ここ」 見慣れたちょっと低めの天井。体に馴染んだベッド。気がつくと私はメイドルームにいた。傍らの椅子に座っている、冷熱用のジェルシートを持った舞波さんと目が合う。 「あ、めぐさん。よかった、気がついたんですね」 「・・・はい」 「舞美さんがこちらまでめぐさんをおんぶして来たんですよ。今また、お嬢様のお部屋に戻っていかれましたけど」 どうやらあんまり頭に血が上りすぎて、ぶっ倒れてしまったらしい。意識があったのは昼過ぎまでで、今はもうすでに日が落ちてきている。私は何時間も眠り続けていたみたいだ。 まだボーッとしてるけれど、バッチリ自分のしでかした事は覚えている。 確かに私はキレやすいほうだけど、今までの人生、我慢するところはきちんとできていたはずだった。一応優等生の部類に入る人間だったし、そんな自分を多少誇らしくも思っていた。それが、雇い主の娘様に向かって、バカ呼ばわり・・・ ふらつく頭を押さえながら、体を起こして両膝に手を置く。 「・・・舞波さん、いろいろ教えていただいたのに、恩を仇で返すような形になってしまって・・・」 「え?」 「こんなことを仕出かした以上、もうここに置いていただくことはできません。家に戻ったら、改めてお礼の手紙を書かせてもらいますので、よかったら住所とか」 「ウフフ、めぐさんたら。別に、誰も怒ってなんかいないですよ」 そう言って舞波さんは、視線をドアの方へ向けた。 「お嬢様・・・」 おずおずと、ドアの陰からお嬢様が姿を現した。強く握りしめられた手から、緊張が伝わってくる。 「おいで、千聖」 舞波さんに優しく手招きされて、ベッドサイドの椅子に腰をかけるお嬢様。 「・・・」 しきりに口を閉じたり開いたりしながら、困ったように眉を寄せて、私のほっぺたや頭に触れる。 もう取り乱したような様子はなく、泣きはらした赤い目のまま、じっと私を見つめていた。 「あ・・・えっと、」 あそこまで怒鳴った後で、どう話しかけたらいいのやら。お嬢様も、どうしたものかと言った表情で、舞波さんに助けを求めるような視線を向ける。 「千聖、めぐさんに渡すものがあるんだよね?」 舞波さんのアシストで、お嬢様の顔が若干明るくなる。スカートのポケットに手を突っ込むと、少し曲がった薄いピンクの封筒を、私の胸に押し付けた。 「手紙?」 “あとで読んで” 口パクでそう言うと、お嬢様はなぜか慌てたように部屋を出て行ってしまった。 封筒の中には、小さな小花模様の散りばめられた、香りつきの便箋が入っていた。そこに、“ごめんなさい”とだけ大きな文字が乗っかっていた。 「お嬢様・・・」 ごめんなさいは、私が言わなきゃいけないことなのに。後を追おうと立ち上がりかけたところを、舞波さんの手がそっと制した。 「・・・たぶん、今は1人でいたいのではないかと。」 「でも、」 「ウフフ、きっと照れてるんですよ。さっきめぐさんが倒れてしまった時だって、みんながびっくりするぐらいすっごく心配してたのに。結構恥ずかしがりやなんです、千聖。」 八重歯をのぞかせて、舞波さんはいつもみたいにおっとりと笑った。まるで可愛い妹の世間話みたいなテンションだ。 「はぁ・・・。いや、そんなことより」 舞波さんから溢れ出るのほほんオーラで、しばしぼんやりしてしまったものの、私はさっきの出来事を反芻して、背筋を伸ばした。 「・・・さっきも言いましたけど、誰もめぐさんのことを非難したりしてないです」 「あ・・・」 私が話を切り出す前に、舞波さんはやんわりさえぎるように、口を開いた。 「それどころか、旦那様と奥様は恐縮なさっていました。本来ならお2人から言わなければならなかったことを、めぐさんに言わせてしまった、と」 「いや、だって、千聖お嬢様の場合は事情が事情ですし。私は感情にまかせて・・・その、バカとか言っちゃったけど、そんな単純な話じゃなかったと思います。舞波さんもごめんなさい。」 「そんな・・・めぐさん。謝るのは私のほうです。自分がこれからどうしたいのかははっきりしているくせに、千聖を傷つけるのが怖くて、中途半端に接してきたから。結局、めぐさんにも千聖にも悲しい思いをさせることになってしまった。」 舞波さんは目を細めて、出窓の外へ顔を向けた。 「めぐさん。千聖は、私にとって、光なんです」 「光・・・」 「そう。真っ暗な迷路に迷い込んでいた私の前に現れて、手を繋いでくれた。千聖が私を見つけてくれたから、側に居て笑っていてくれたから、私はこうして笑う事ができるようになった。ちゃんと、自分の未来のことを考えられるようにもなった。 私は千聖を置いていくんじゃなくて、千聖の照らしてくれた道を、1人でもくじけないで歩いていきたいんです。元いた場所に戻るのは少し怖いけれど、もう逃げたくないから。千聖に恥じない人間になった時、また、笑って会いたい。」 とても穏やかだけれど、誰にも曲げられない強さを感じさせる舞波さんの表情。だけど、私は何だか物足りなさのようなものを覚えた。 「舞波さん、だけどそれ・・・ちゃんと、千聖お嬢様に伝えたんですか?」 「・・・いいえ。そこまでは」 「だめだよ、それじゃ」 今度は大きな声を出さないよう、気持ちを落ち着けながら、私は舞波さんの隣に立った。 「私、なんかわかった。舞波さんは優しいけど、結構ガンコ者だ。だからお嬢様は、今すごく混乱してるんだと思う。 初めて出来た友達で、いつも自分のことを思いやってくれるはずの舞波さんが、どう引き止めても残ってくれないなんて、すごくショックだったんじゃないかな。 それに、未来が見える舞波さんが自分の元から去っていくってことは、お嬢様の存在が、舞波さんにとって今後不必要になるって考えたとか。・・・まあこれは私の憶測なんだけど」 言葉を選びながらそう告げると、舞波さんはあっけに取られたような顔になった。 「・・・ガンコ。初めて言われた。でも、そのとおりだ」 ガンコだなんて言ったら、人によっては怒っちゃってもおかしくないのに、舞波さんは感慨深そうに何度もうなずいた。 「私、口下手だからつい、何でも端折って話す癖があって。千聖はすごく行間を読んでくれるから、そういうことに甘えていたのかもしれないな。めぐさんみたいに、ちゃんと気持ちを伝えられるようにならないと」 「ま、まあ、私はかなり言いすぎるところもあるんだけど・・・でもこのまま、何にも言わないでいなくなっちゃうより、たとえケンカになったって全部思ったこと言ったほうがいいって。 それでお嬢様がキーッって怒っちゃうようだったら、ちゃんと私が間に入るから。 明後日でしょう?帰るの。だったらまだ間に合うよ。 舞波さんは、私にとってだって、大切な友だちです。いっぱいキツイこと言ったけど、お嬢様のことも、好きだから。だから、私のこともっと頼って。二人には、ちゃんと友だちのまま、笑ってお別れしてほしい」 「・・・そうですよね。ありがとう。めぐさん」 かなり私の個人的な願望も込められていたけど・・・ちゃんと舞波さんの心には届いたみたいだった。 「私、必要なら悪役だって買って出ますよ。ほら何か、絵本であるじゃない。私がお嬢様を苛めているところに、舞波さんが偶然通りかかって・・・とか」 「もう、めぐさんたら」 だけど、事態は私たちの予想もしていなかった方向へと転がっていったのだった。 誤算1。 舞波さんとの話が終わり、すぐに謝ろうと思ってたのに、顛末を耳にし(弟様がおチクりになりやがった)部屋にやってきたメイド頭さんからこっぴどく叱られた私は、その場で3日間の謹慎処分となった。 当然、お嬢様への接触は禁止。部屋で反省文を書くのと、自己学習の時間に充てるよう言い渡された。 誤算2。 夜になって、舞波さんもお嬢様と話す機会を作ろうとしていたのだけれど、弟様や妹様達が千聖お嬢様と一緒に居たがったから、2人になることはできなかったみたいだ。 誤算3 翌日、その日中には仕事先の別荘に戻るという旦那様達からの言葉を受け、お嬢様は家族と一緒に居たいとスケッチブックに書き、朝食後すぐに遠方の御祖父母様のお家へ出かけて行ったらしい。 夕食後、旦那様達と別れ、執事さんと共に深夜に近い時間に戻ってきたお嬢様は、疲れ切った顔ですぐ部屋に戻ったという。 そのため、舞波さんはお屋敷での最後の夜も、お嬢様と顔をあわせることができなかったみたいだ。 そして、舞波さんがここから旅立つ日の夕方。 お嬢様は、お屋敷から姿を消した。 次へ TOP